荒ぶるくちびる #20

年の割に肌がキレイだ。
たぶんもともと丈夫というのとあるし、若い頃にメイクアップは極力せず、日焼けに気をつけたことが功を奏したと思っている。

あといまならもう一つ大きな理由がある。
とある出会いだ。

5年前、福岡県は上毛町(こうげまち)という場所が移住者促進プログラムとして、初めて「お試し移住者」を募ったときに参加した。

当時こういった取り組みは珍しく、おそらく初めてやったところだったんじゃないかと思う。
その優秀なプロデューサーが江副さんだった。

九州を中心とした地域活性やローカルブランドのシカケを中心に手がけておられた。
その繋がりで紹介してもらったのが「FILTOM(フィルトム)」だった。

フィルトムはもともと九州大学の中にある医療研究のベンチャーで、いろいろな物質を「濾過する」研究をしていた。
その細かさたるや、過熱して死滅させないとなくならない菌さえ取り除いてしまうほど。

豚の胎盤を利用した「プラセンタ化粧品」というのがあるけれど、とても上質なコラーゲンではあるものの、豚だけに菌が多く含まれており加熱しない限り除去できなかった。
しかし熱を加えてしまうとコラーゲンは変質するし、そもそも組織が大きすぎて肌に付着しても浸透せず「意味がない」のだ。

もちろん、髪の毛を食べても髪が生えてこないように、コラーゲンを食べても肌に影響はないらしい。(肌がつやつやになった気分になるのは皮脂らしい…)

フィルトムとはフィルム、つまり膜のことだ。
あらゆるものを濾過して磨いてしまう研究に成功した。試しに豚の胎盤を濾過してみたところ、熱を加えることなく菌が除去できたそうだ。
おまけに細密な膜を通ってきたおかげで、コラーゲンが肌の奥にある肌生産工場まで届くほど細かくなった。
これは化粧品にするか、ということで生まれたブランドだそうだ。
(ちなみに豚は九州の無農薬牧草を食べて育った食用健康豚のものを譲ってもらっているらしい)

しかし最初はうまくいかなかった。
色気のない男性研究者が成果と機能性だけで「結果的に出来た化粧品」のブランドは当初無骨なものだったそうだ。

質の良さと予算のなさをくみ取った江副プロデューサーが今のフィルトムブランドを再構築した。

そのリブランドの一貫として、いろいろな女性たちに製品を提供してフィードバックを受け、製品開発に活かしている。

長くなったけど、その「いろいろな女性たち」にわたしも入れてもらって、かれこれ4年はフィルトムを使い続けているおかげで、「年の割には肌がキレイ」なのだ。ほんと、まったくとはいわないけれど、めったに肌トラブルがない。(ニキビとか出来てもすぐ治る)
フィルトム開発者で代表の尾池博士曰く「効果があるものを使っているんだからうまくいくのは当たり前。世の中の化粧品会社が何やってるのか逆に分からない」とのこと。さすが理系の口ぶりだ。

どんな流れか忘れてしまったけど、いまそんなフィルトムと一緒にリップクリームを作っている。

わたしに手放せない化粧品といえば何よりリップクリームで、こちらは肌とは違ってもともとくちびるが荒れやすい。
それなのに特に乾燥する寒冷地や、海で濡れては乾くを繰り返し肌にとって過酷な場所にばかり行きたがる。

唇が荒れると保湿はもう意味がない。
擦り傷に美容液塗ってるようなものだ。多少の保湿は意味あるのだろうけど、傷パワーパッドみたいなの貼って治らないものだろうか。
そんなわけでリップを見つけては買いしていたものの、かっさかさでひび割れたところに油でふたするだけのリップクリームに絶望していた。
そうじゃない、わたしのくちびるはそれより前のことなんだ。

高くても安くても、脂の種類が変わるだけなんですよ、リップクリームって、どうにかならないんですかね。なんて話を尾池博士にしていた。
ちょっとした与太話だ。

すると意外な返答が返ってきた。
「人間の表面はたくさんの生命の共存体なんですよ」

えっ……なんの話?

曰く、肌が荒れるということは、生き物=微生物のバランスが崩れていて、自然の摂理が上手く廻っていない、ということだそうだ。

そして「肌と唇の最適な環境は違うんです」と続けた。

微生物のバランスを保つリップクリームってないんですか?

「まだないですね」

じゃあ作りましょうよ! 微生物育成リップ!

めっちゃめちゃ前置きが長くなったけど、そんなふうにして、ただいまリップの開発中。

手元に施策品が2つ来て(脂の成分違い)、チェコ旅でつけていた。

昼間は化粧していて夜、寝る前に一度つけているだけだった。
ヨーロッパは腕から粉が吹くくらい乾燥していて(もちろんボディクリームはたっぷり塗ってるのに!)、その乾燥具合は桁違い。
でも、顔だけ…くちびるも元気だった。

帰国してから疲れは噴出する。
予定を詰め込みすぎていて、落ち着いてチェコのお土産品を開いたのはおとといの話だ。(帰国より一ヶ月後)

それでもくちびるは元気だったので、もしかして丈夫になったのでは、と思った。

ここ数年のコヤナギは、年を追うごとに健康になっている。

もしかして唇もタフになったんじゃない?と思ってリップを使うのをやめてみた。
するとものの一週間で皮が剥け始めた。もちろん普通のリップは付けてる。
それでも、だ。

いやまてよ、疲れで特別肌が弱っているだけかもしれない。微生物育成リップにかえたって、変わらないかもしれない。
再度、微生物育成リップを使い始めて一週間。

くやしい、なぜかくやしい。
くちびるがきれいに治り始めている。

まだこの世になかったはずの「微生物」アプローチの化粧品だったが、この夏、クリスチャンディオールから“美肌菌”なる「バイオフローラ」という微生物アプローチのコスメライン「ディオールライフ」が鳴り物入りで始まった。(ライフというブランド名から生き方=微生物育成環境に着目してるのは間違いないと思う)

くそう、と下唇を噛みながら尾池博士に報告すると
「美肌菌などといっている間は恐るるに足らず、ですよ」とひょうひょうとしていた。

“結果が出て当たり前”なリップクリームづくりに関われてありがたい。
生プラセンタみたいにリップクリームの常識覆らないかな、と願っている。

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